第二幕・第十三場:12人目の証言者

上手より、運送会社の男、辰野登場。

タツノ 「失礼します。当地区担当の配送員、タツノです」
ムロタ (驚いて)「タツノさん?いったいどういうことです?」
タツノ 「はい、本社の方から連絡が参りまして、この地区の配達担当員を権堂家に寄越せとのことでしたので」
ムロタ (上手に)「どういうことです!なんですって、ラッカースプレーを用意したのがこの男?」
タツノ 「そう言われますと語弊がありますが、権堂家の目の前の公衆電話にラッカースプレーを届けましたのは確かに私です」
ムロタ 「それは昨日のことですか」
タツノ 「はい、昨日の夕方6時頃のことです。ネット経由でラッカースプレーの注文を受けまして、前金で入金いただきましたので登録されている住所にお届けに上がりました」
ムロタ 「お届けに上がりましたと言いましても、電話ボックスにですか?」
タツノ 「はい。電話ボックス一つ一つにもちゃんと住所が設定されておりまして、電話番号もちゃんとあるのです。私も届け先に着いた時には驚きましたが、宛先に書かれている番号に電話して二度驚きました。公衆電話が鳴る音など初めて聞きましたから。それでも、届け先も番号も指定された通りで、お金は既にお支払い頂いてましたから、仕方なくそこに置かれていた判子を受取証に捺して、ラッカースプレーを置いて、帰りました」
ムロタ 「判子?名前はどうなっていました?」
タツノ 「どう考えましても偽名だと思うのですが、山田と」
ムロタ 「……なるほど」
タツノ 「ですから、どなたがご依頼主なのか、今すぐに調べろと言われましてもお答えしかねる状況ですが、少なくとも状況だけは説明した通りです」
ムロタ 「分かりました。ご協力ありがとうございます」

ムロタ、二人に振り返る。

ミヤモト 「残念ながら、彼からこれ以上の情報を引き出そうとしても無理のようですね」
ナガタ 「なんで架空の人間が注文できるんですか、そんな適当な」
タツノ 「そう言われましても、当社としても悪用の危険があるようなものなら考えもいたしますが、ラッカースプレーですし。それにお金は頂いてましたし、信用で運営するのが当社の方針ですから」
ミヤモト 「タツノさんを責めても何にもならないよ。言わば、彼も被害者だ」
ナガタ 「でも、なんか……」
ミヤモト 「納得いかないかい。いかなくても、この場は仕方ないと思いたまえ」
ナガタ 「分かったよ」
ムロタ 「そういうわけです」
タツノ 「また何かありましたらご連絡下さい。お手伝いできることでしたら、何なりと」
ムロタ 「よろしくお願いします」

タツノ、一礼して上手に退場。


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