第二幕・第十二場:11人目の証言者

清掃会社の男、平沢、上手より登場。

ヒラサワ 「失礼します。イイヅカ清掃のヒラサワと申します」
ムロタ 「ヒラサワさん、お仕事ご苦労様です」
ヒラサワ 「いえ、警察の皆さんこそご苦労様です。とんだことになりましたね」
ムロタ 「ええ、ですから、是非ともご協力をお願いいたします」
ヒラサワ 「勿論です。とは言いましても、お役に立てますかどうか」
ムロタ 「どんな情報でも、今は有るに越したことはありません。お話を聞かせていただけますか」
ヒラサワ 「分かりました。今日は午前8時頃に当社の方に権堂様からお電話がありまして、塀の落書きを落として欲しいとのご依頼でした。ですので落書きの規模をお聞きして、私が一人で参りました」
ムロタ 「それが何時頃のことですか?」
ヒラサワ 「9時頃です。コスモスさんもちょうど同じ頃に来られてましたね。いえ、こういう家の内外のお仕事ですからコスモスさんともよくさせていただいておりまして、車の方もお互いに把握しておりますので、見れば分かります」
ムロタ 「なるほど、それで今まで、落書きを落とされていたわけですね」
ヒラサワ 「ええ、まぁ、市販のラッカースプレーでしたからさほど苦労はいたしませんでしたが。それに、権堂様が非常に強力な洗浄剤を用意して下さっておりましたので」
ムロタ 「それはそれは」
ヒラサワ 「しかしアレですな、これを書いたヤツも大胆ですな」
ムロタ 「何故、そう思われますか」
ヒラサワ 「何故ってそれは、ほら、塀の中と外と、両側に落書きしておったでしょう」
ムロタ 「そうらしいですね」
ヒラサワ 「しかも中の方が派手に書き散らしてあったのですから、これはなかなかの大胆なヤツの仕業ですよ。犯人は少なくとも二人と見えますね」
ムロタ 「二人、ですか?」
ヒラサワ 「外に書いたヤツと中に書いたヤツは別人でしょう。なんとなく書き方のクセが違いましたし、この塀、一人では乗り越えるのは難しいと思いますがね」
ムロタ 「なるほど、そう言われてみればそうかもしれません」
ヒラサワ 「それ以外には、そうですね、洗浄剤が強力な酸だったお陰で気を遣った、ぐらいですかね」
ムロタ 「庭木や土壌に掛からないように手を施してから清掃なさったとか」
ヒラサワ 「ええ、塀の外のヤツもね、排水をそのまま流してしまうよりはお屋敷の浄水槽を一度経由させた方が良いって言われまして、溜めてから流しましたよ。面倒と言えば面倒でしたが、まぁ、仕方のない話でしょう」
ムロタ 「ヒラサワさんは権堂家とは長いお付き合いですか?」
ヒラサワ 「いえ、このお屋敷は初めてですな。ですから私は自分の仕事以外には何も分かりません」
ムロタ 「仕事中に気付いたことなどは」
ヒラサワ 「……いや、今までに話したこと以外は特には。申し訳ない」
ムロタ 「いえいえ、とんでもない」

ムロタ、二人に振り返る。ミヤモトとナガタ、頷く。

ムロタ 「どうもありがとうございました」
ヒラサワ 「お役に立てたのならこちらとしても嬉しい限りですよ。それでは失礼します」
ムロタ 「ご苦労様でした」

ヒラサワ、一礼して上手に退場。
ムロタ、それを見送って何事か考えている。
ナガタも首を捻っている。
ミヤモトは一人、面白くなさそうに肩をすくめる。

ムロタ 「さっきの、マキタと言いましたか、あの落書き男をもう一度問い詰めて見る必要がありますね」
ナガタ 「俺もそう思ったところですよ」
ミヤモト 「意味があるとは思えないがね」
ナガタ 「なんでだよ!」

ミヤモト、黙ったまま。


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