第二幕・第十一場:10人目の証言者

つんのめるようにして出て来た男、牧田、上手を振り返って

マキタ 「いてーじゃねーか、何すんだよ!」
ムロタ 「騒がしいのがやって来ましたね」
マキタ (向き直って)「あ、すんません」
ムロタ 「いえ、構いませんよ。それで、貴方はいったい?」
マキタ 「あー、オレ、マキタって言います。ちょっと、あの、謝りに来たんスよ」
ムロタ 「謝りに?」
マキタ 「そうっス。あの、昨日の夜、このお屋敷の塀に落書きがあったっしょ。アレ、オレが書いたんスよ」
ムロタ 「貴方が?」
マキタ 「そうっス。でも、やっぱさすがに悪いコトしたかなと思って、バレる前に自分から謝りに来たんス。今日も朝から何か警察とか来て大騒ぎじゃないスか。これでオレがやったってバレたら大事になるだろうけど、先に詫び入れとけば大目に見てもらえるんじゃないかって」
ムロタ 「なるほど」
マキタ 「証拠っつーのもアレっスけど、コレが、オレが使ったラッカースプレーっス。使った量とか、オレの指紋とか調べてみたら間違いないって分かると思うんスけど」
ムロタ 「なるほど、それは表の警官に後で渡しておいていただけますか」
マキタ 「了解っス」
ムロタ 「それで」
マキタ 「なんスか」
ムロタ 「いくつか質問に答えていただけますか」
マキタ 「いいっスよ」
ムロタ 「まず、あの落書きは何なのですか」
マキタ 「いや、意味はないっス」
ムロタ 「意味はない?」
マキタ 「そうっス。刑事さん、知らないっスか、今、ネットでちょっと流行ってるゲーム」
ムロタ 「インターネットには疎いので、教えていただけませんか」
マキタ 「写真をネットにアップロードして、その場所を一番に特定してそこにたどり着いたって証拠をアップロードするってゲームっス。その現場が、昨日の夜はここの塀だったんスよ」
ムロタ 「……妙なゲームですね」
マキタ 「知識と推理力が試される、ネットとリアルを股にかけた、結構奥の深え、すげえゲームなんスよ。そんで昨日のは、一番にたどり着いた証拠に、塀のそばの電話ボックスのところに置いてあるラッカースプレーで、自分の書き込みIDを塀に書け、って指令だったんスよ」
ムロタ 「書き込みIDとは?」
マキタ 「掲示板に書き込む時に、誰が書き込んだか分かるように、ケツのところにひとりひとり別のIDが自動的に割り振られるんス。で、それを塀に書いたら、間違いなくその本人が書いたってわかるっしょ」
ムロタ 「そんなのが流行っているんですか」
マキタ 「ラッカースプレーで落書きしろってのは初めてだったっス。で、オレ、初めて自分の分かる場所で、初めて一番にたどり着けたから嬉しくなって、ついやっちまったんスけど、あとで考えてみたらやり過ぎたなと思って。掲示板でも、やり過ぎだって叩かれたし、謝りに行けって書き込みが多かったんで」
ムロタ 「なるほど」
マキタ 「オレ、何か罪に問われるんスかね」
ムロタ 「器物損壊は間違いないでしょう。せいぜい罰金刑でしょうけれど」
マキタ 「げっ、マジっスか」
ムロタ 「それだけのことをしたわけですから」
マキタ 「ちぇっ、でもま、逃げ隠れして余計に罪が重くなるよりマシか」
ムロタ 「殊勝ですね」
マキタ 「まぁね、諦めは良い方なんスよ、オレ。いや、正直、昨日の夜からあんま生きた心地しなかったっスから」
ムロタ 「それはまたどうして」
マキタ 「だって、オレが落書きして帰ろうとしたら、塀の中からなんかサイレンみたいなの聞こえてきて、オレ、落書きが見つかったんだと思って急いで逃げたんスよ。まぁ、追っかけて来られなかったから、アレは違ったのかな」
ムロタ 「それは、何時頃の話ですか」
マキタ 「え、や、たぶん1時頃っス」
ムロタ 「塀の中の様子は、見なかったんですか?」
マキタ 「見るわけないっしょ、浮かれてた気持ちが一瞬ですっ飛んで、それどころじゃなかったっスよ」
ムロタ 「なるほど」

ムロタ、二人に振り返る。ミヤモトとナガタ、頷く。

ムロタ 「結構です。後のことは外の警官にお願いしましょう」
マキタ 「自首して良かったんスよね」
ムロタ 「勿論です。こちらとしても非常に助かりました」
マキタ 「じゃ、失礼するっス」

マキタ、一礼して上手に退場。

ムロタ 「今の証言、どう思います?」
ナガタ 「何か、ちょっと信じられないというか、怪しいというか」
ミヤモト 「さてね、一つ気になるのが、そのラッカースプレーを用意したのが誰なのか、という点ですが」
ムロタ 「確かに」

ムロタ、上手に向かって

ムロタ 「きみ、さっきの少年に、ラッカースプレーの出所について訊いておいてもらえますか。え?別件で来客?ああ、今度は壁の清掃が終わったと。分かりました、こちらへ」


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