第二幕・第十場:9人目の証言者

配管工、黒田は入ってきてすぐ一礼。

クロダ 「お世話になっております。株式会社コスモスのクロダと申します」
ムロタ 「クロダさん、よく来て下さいました。お仕事はもうお済みだそうですね」
クロダ 「ええ、私が呼ばれました理由はまぁ、2時間ほどで片付きましたので、それからお屋敷の配管の総点検を致しておりました。定期点検はもう少し先でしたのですが、もののついでというやつで。はい」
ムロタ 「なるほど、ご苦労様です。ところで、貴方は権堂家とは長いお付き合いで?」
クロダ 「はい、当社が権堂家の配管関係を一手に引き受けておりまして、私がここ何年かは窓口兼作業員となっております」
ムロタ 「そうでしたか。ところで、今日の貴方のお仕事について少々伺ってよろしいでしか」
クロダ 「ええ、そのために参りました。今日は、朝の8時に当社の方に電話がありまして、権堂様のお部屋の下水管が詰まっているようだと、こういうお話でした。ですので、私が検査道具と修理道具一式を抱えまして9時頃にお邪魔させていただきました。それから30分ほどで検査してみましたところ、どうやら下水管の逆流防止弁とフィルターがかましてある辺りに何かが詰まっている様子でしたので、そう申し上げましたところ、10時すぎには来客があるからその前に修理できないかというお話で、保証はできかねますと、お答えしました」
ムロタ 「それは権堂氏とのお話ですか」
クロダ 「その通りです。権堂様はその前にシャワーを浴びたいのだと仰いましたので、私は、詰まっている部分を迂回して応急的な排水配管を作ることは可能だとお答えしました。ただし、逆流防止弁やフィルターの部分を迂回いたしますので、応急的には今取り付けているものほどの高性能なものは付けられないと申し上げましたが、権堂様はそれで構わないと仰いましたので、そのように致しました」
ムロタ 「そうして貴方が修理している間に、権堂氏はシャワールームで倒れられたというわけですね」
クロダ 「ええ、その通りです。私には何が何やらさっぱりです」
ムロタ 「確かに貴方が何かに関与しているとは考えにくいようですね」
クロダ 「第一、権堂様は私どもにとって大口の顧客でして、これまでも非常にお世話になっております。どうして権堂様に悪意を持って報いるようなことがありましょうか!」
ムロタ 「いやまったく、仰る通りです。ではクロダさん、修理の最中などに何かお気づきになったことはありませんか」
クロダ 「何かお力になれれば良いのですが、生憎と配管修理は現場からも少し離れておりまして、事件のことも、修理が終わって教えられて初めて知ったぐらいなのです。気付いたことと言われましても、何も」
ムロタ 「なるほど、よく分かりました」

ムロタ、二人に振り返る。

ミヤモト 「ちなみに、下水管に詰まっていたのは何でしたか」
クロダ 「布きれですよ。ただ、ちょいと良い生地でしたよ。ハンカチか何かですかね」
ミヤモト 「なるほど、どうも」

ミヤモト、頷く。ナガタも結構という風に頷く。

ムロタ 「ご協力感謝いたします」

ムロタがそう言うと、上手の方が何やら騒がしくなる。

ムロタ 「どうしました!え、怪しい男を捕らえた?分かりました。入れて下さい」

つんのめるように、上手から一人の男が。それを避けて、入れ替わるようにクロダ、上手に退場。


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