第二幕・第九場:8人目の証言者

上手から、トノムラの秘書ハタナカ登場。

ハタナカ 「失礼いたします。トノムラ副会長の秘書をしております、ハタナカと申します」
ムロタ 「ハタナカさん、早速ですがいくつかお話を伺いたいのですが」
ハタナカ 「はい、かしこまりました」
ムロタ 「まずは、トノムラさんとの関係についてですが、トノムラさんとの付き合いは長いのですか」
ハタナカ 「トノムラ様付きの秘書となりましてからは2年ほどでしょうか」
ムロタ 「率直に言って、トノムラ氏とはどういう人でしょう」
ハタナカ 「そうですね、上昇志向の強い人です。ですが、仕事の出来る人でもありますし、ユーモアもあり、私としては信頼できる上司だと思っております」
ムロタ 「ふむ、では、貴方の昨晩からの行動を教えていただけますか」
ハタナカ 「承知いたしました。昨日は夕方からトノムラ様と一緒に権堂家へ参りまして、トノムラ様と権堂様が会談なさっているあいだは、隣の間で待たせていただきました。それから、夕飯を一緒にいただいたのですが、途中、トノムラ様がビーフシチューをこぼされましたので、替えの服を自宅から持って来ること、それから塩素系の強力な漂白剤を大量に買って来ること、この二つを仰せつかって、中座いたしました。戻ってからは漂白剤を権堂家の家政婦の方にお渡しして、トノムラ様が着替えられた服をクリーニングに出しに行きました。それから戻った時には既に夜の10時過ぎでしたので、私はもう休むようにとトノムラ様から承り、自室に引き上げることにいたしました」
ムロタ 「それから朝までは何事もなく?」
ハタナカ 「いえ、夜中の1時頃でしたでしょうか、何となく騒がしくなった気がして目が覚めたのですが、どうやら不審者が庭の警報機に引っ掛かったとかいうお話で。廊下に出てみますとトノムラ様もそれで目を覚まされたようで、出ておいででした。ですが、しばらくして権堂家のご子息だったとの報が流れまして、ほっと安心してトノムラ様がお部屋に戻られるのを確認してから、私も部屋に戻りました」
ムロタ 「それだけですか?」
ハタナカ 「はい。それからは特に何事もなく。今朝は朝食前にトノムラ様と権堂様の会談を隣の間でお待ちしてから、朝食はご一緒させていただき、それからはトノムラ様と一緒に本日の打ち合わせなどをしておりました。権堂様の死体が見付かるまでは、ずっと一緒におりました」
ムロタ 「トノムラ氏は、家政婦のシノブさんの悲鳴を聞きつけて、権堂氏の部屋へと駆けつけたそうですが、貴方も?」
ハタナカ 「はい。私も共に駆けつけました」
ムロタ 「その時に何か気付いたことなどありませんか」
ハタナカ 「そう言われましても、私も権堂家にお邪魔するのは月に一度程度のことでして、何か変わっていたとしましても気付けるようなことは」
ムロタ 「そうですか、それは残念です。そんなところでしょうか。いや、ありがとうございます」

ムロタ、はたと上手に視線をやる。

ムロタ 「どうしました?なに、配管の修理点検が終わったと。なるほど、では今度は君の証言を聞かせてもらえますか」

上手から配管工、黒田登場。入れ替わるように、一礼してハタナカは上手に退場。


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