第二幕・第六場:5人目の証言者

ヒトエ 「イツミっ!」
イツミ 「わたしもいるもんっ!」

ヒトエ、イツミを捕まえる。イツミ、軽く抵抗。

ムロタ 「その子は?」
ヒトエ 「あの、その、わたくしたちの末の妹で……」
イツミ 「家政婦見習いのイツミですっ」
ムロタ 「イツミちゃん?しかし、四人姉妹だと」
ヒトエ 「家政婦をしているのは四人なのでございます。この子はまだ見習いでございまして、礼儀もなっておりませんし」
イツミ 「なってないけど証言ぐらいできるよっ、じゃなくてできますっ」
ヒトエ 「イツミっ!」
ムロタ 「まぁまぁ、ヒトエさん。このお屋敷に住んでいる人全員からちゃんと証言をもらう必要があるんですから、ここは抑えて」
ヒトエ 「は、はい。申し訳ございません」
ムロタ (イツミの方を見て)「イツミちゃん、証言してくれるんだね」
イツミ 「す、しますっ」

ムロタ頷いて、ヒトエの方を見る。

ムロタ 「そういうわけですので、ヒトエさんは退室頂いてもよろしいですか?」
ヒトエ 「で、ですが」
ムロタ (きっぱりと)「ヒトエさん、姉として幼い妹を血生臭い話に関わらせたくないという気持ちは分かります。また礼儀を失したことをしでかすのではないかと心配する気持ちも理解します。しかし、私たちはイツミさんからの証言も必要なのです。そしてイツミさんに自由に話して頂くためには、失礼ながら、ヒトエさん、貴女がいない方が都合が良いようですが、いかがですか」
ヒトエ (うつむいて)「……分かりました」

ヒトエ、イツミを放し、上手に退場。イツミ、それを黙って見送る。

ムロタ 「イツミちゃん」
イツミ (呼ばれて気付いて振り返る)「え、なに?じゃなくて、なんでございますか?」
ムロタ 「イツミちゃんは何を証言してくれるのかな」
イツミ 「うん、はい、わたし、ずっと話聞いてたからなんかすごい新しいこと言えるわけじゃないん、ですけど、お姉ちゃんたち遠慮して言わないこと教えてあげようと思い、まして」
ムロタ 「何だろう」
イツミ 「何かね、今の奥様、後妻ってやつなんだよ、です」
ムロタ 「後妻ってことは、二人目の奥さんってことでいいのかな」
イツミ 「そうです。だから、お金目当て?なんだって話を聞きました。今の息子さんも、奥さんの連れ子で、財産狙ってるんだって」
ムロタ 「それは、よく聞くような噂ではあるけど」
イツミ 「でも、お姉ちゃんたち、奥様だからって遠慮して言わないから、わたしが言ってあげないとだめかなって思ったんです」
ムロタ 「それはどうもありがとう」
イツミ 「それに、わたし、旦那様大好きだったから」
ムロタ 「え?」
イツミ 「きっとお姉ちゃんたちもそうなんです。旦那様は身寄りがなかったわたしたちを拾って雇ってくれたんです。だからわたしたちは旦那様のために精一杯頑張ってたんです。奥様は旦那様が選んだ人だから、お姉ちゃんたち悪く言えないんです。でも、わたし、わたし……」
ムロタ 「いいんだよ、よく教えてくれたね」
イツミ 「お願いです。旦那様を殺した人、見つけて、罪を償わせてやってくださいね。約束ですよっ」
ムロタ 「約束しよう。絶対に犯人を逃がしたりしないって」

イツミ、頷く。

イツミ 「それじゃ、失礼しますっ」

お辞儀して、上手に出て行こうとすると、袖からヒトエ出てくる。

ヒトエ 「失礼いたします。お話は終わりましたでしょうか」
ムロタ 「終わりましたが、どうしました」
ヒトエ 「いえ、頃合いかと見て妹を迎えに参っただけでございます」

イツミ、ヒトエに駆け寄って手を繋ぐ。
ムロタ 「なるほど、いや素晴らしいタイミングでした。ああ、そうです。ついでにヒトエさんにも一つ」
ヒトエ 「なんでございますか」
ムロタ 「権堂氏の部屋に駆けつけた時に、何かお気づきの点はありませんか」
ヒトエ 「いえ、特には」
ムロタ 「そうですか、では、イツミちゃんは」
ヒトエ 「イツミは、旦那様のお部屋には入れませんでしたので」
ムロタ 「入れなかった?」
ヒトエ 「シノブの悲鳴からただならぬ状況と察しましたので、念のために」
ムロタ 「それは賢明だったかもしれません。分かりました。それではどうぞ」
ヒトエ 「はい、失礼いたします」

ヒトエ、一礼。それを見てイツミも一礼。

ムロタ 「そうだ、ヒトエさん」
ヒトエ 「なんでございましょう」
ムロタ 「権堂会長の秘書さんを呼んでいただけますか」
ヒトエ 「かしこまりました」

ヒトエとイツミ、上手に退場。
二人が出て行ったのを確認して。

ミヤモト (大袈裟にため息をついて)「これはまた面倒なことになった」
ナガタ 「なんだ、どうしたんだ」
ミヤモト 「いや、こっちの話だよ。まったく、不義理はしたくないがこれは思いがけない難題だな」


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