Scene3-1:the woman with avulseD mouth

上手奥より、巡査登場。
巡査登場と同時に孔雀と雪枝は箱馬を抱えて上下に退場。
巡査はキョロキョロしながらセンターにたどり着いてから、ツラに。
そこで無線に入電、無線を手に取る。

雄一郎 「あー、こちら堺、堺雄一郎どうぞ」

応答を待つフリ。以降、遣り取りは無対象で。

雄一郎 「現在位置は、竜ノ沢入り口。定期の巡回パトロール中どうぞ」

雄一郎 「え?探し人?」

雄一郎 「も、申し訳ありません!復唱、姓名『牧田梢』の捜索、了解しましたどうぞ!年齢は30代後半、ハイ、ハイ」

手帳を取り出してメモし始める雄一郎。そんなやりとりをしている内に下手奥から例の三人+ドンさん登場。
雄一郎、メモを取る傍ら、キョロキョロと辺りを見回し、和美と目が合う。

和美、笑顔で敬礼。
思わず敬礼を返す雄一郎。

雄一郎 「ハイ、ハイ、(メモを取っている)病院から遁走、と。了解いたしました!ではこれより、捜索を行います!どうぞ!」

センターを過ぎて、上手奥に消えかけている三人+ドンさんを見て声をかける雄一郎。

雄一郎 「あ!ちょ、ちょっとそこの方々お待ちをっ!」
和美 「はい?」

四人、立ち止まる。

雄一郎 「いやなに、そんなに大したことではないのですが、ちょっとお時間を頂いて二、三、質問にお答え願えませんか」

首をかしげながら、センターに戻ってくる四人。中央に雄一郎、上手に女子中学生三人、下手にドンさん。

雄一郎 「まず、名前をお聞かせ願いたい」
和美 「名前?やしむぐっ」
桐子 (言いかけた和美の口を塞いで小声で)「バッカじゃないのあんた!どっから足がつくか分かんないんだから、不用意に名前名乗るんじゃないの!」
桐子 (雄一郎に向き直り)「人に名前を尋ねる時は、先に名乗るのが筋でしょ」
雄一郎 「こ、これはとんだ失礼を!本官は、堺雄一郎!竜ノ沢入り口前派出所の巡査であります!」
桐子 「巡査?それで、警察官の堺さんが、私たちにいったい何の用なの?」
雄一郎 「それがでありますね、ちょっと今、人を探せとの指令を受けたところでありまして、ハイ」
桐子 「人を探せ?」
雄一郎 「ハ、『牧田梢』という30代の女性ですな!」
みさき 「牧田梢っ?」

思わず声を上げたみさきと、何か心に触れたのか、顔をしかめるドンさん。一人首をかしげ始めるドンさんに気付かず、雄一郎と三人娘は話し出す。

桐子 「なによ、みさき知ってるの?」
みさき 「し、知らない」
雄一郎 「その態度は非常に怪しいであります!何かご存知なら是非とも本官にお知らせいただきたく!」
みさき 「し、知らないです。本当です。知ってるのはその人の名前だけです。確か、その人、15年前の……」
雄一郎 「おお!よくご存知ですな!15年前のこの奥(上手奥を指さす)であった事件の生き残りだそうで、何でも病院から逃げ出したというんですからアグレッシブですな!」

うんうん、と一人頷く雄一郎。

雄一郎 「では、行方については何もご存知ない、というわけですな!」
みさき 「は、はい」
雄一郎 「ちなみにどなたも、この近辺でそのような方を見かけてはいない、ということでよろしいですかな!」
桐子 「そうね、見てないわ」
和美 「ちょっと心当たりがないねー」
ドンさん (心ここにあらずという体で無言で頷く)
雄一郎 「なるほど、何か新しい情報がありましたら是非とも本官にご一報を!」
みさき 「わ、わかりました!」
雄一郎 「それでは、お気をつけて!」
みさき 「はい、それでは」
桐子 「じゃーね」
和美 「ばいばーい」

各々手を振って女子中学生三人は上手に、雄一郎は下手に別れかける。
ドンさんはその場に取り残されかける。

和美 (気付いて)「ドンさん!行くよ!」
ドンさん 「あ、お、おう」

その声で、雄一郎、ぐるりと向きを変える。

雄一郎 「ああ、ところで!」

行きかけた四人、びくりと立ち止まる。

雄一郎 「これは今の話とはまったく関係がないのですが、一つ質問が」
桐子 「……な、なによ」
雄一郎 「ああいえ、大したことではないのですが、そっちの奥は先ほども申し上げた通り、15年前に殺人事件のあった沢になっているのでありますよ」
桐子 「知ってるわよ」
雄一郎 「そんなところに行かれるとは、皆さん、どのようなご用件で?」
桐子 「げっ」

上手よりのまま三人集まる。その後ろにドンさん。

桐子 (小声で)「な、なに、もしかして、何か怪しまれてる?」
和美 (小声で)「わかんないけど、もしかしなくてもそうかも」
みさき (小声で)「ど、どうしよう」
桐子 (小声で)「あー、だからなんかヤな予感してたんだ」
和美 (小声で)「そんなこと言ってる場合じゃないって」

雄一郎 「どうされたんですかな!答えられないのですかな!」(ずい、と一歩前に出る)
ドンさん (三人の後ろで高笑い)「はっはっは!いやいやそれ以上娘たちを脅かすのはやめていただけませんか」
雄一郎 「と、言いますと」
ドンさん 「この三人はこれから私と一緒にキャンプに行くところでして、この先に私の別荘があるのですよ」
雄一郎 「失礼ですが、あなたは?」
ドンさん 「殿村博彦と申します。この子(目の前に立っているみさきの肩に手を置く)の父親でして、他の二人は娘の友人です」

三人、ぶんぶんと首を縦に振る。

雄一郎 「ほうほう、そうでしたか。それはお引き留めしてしまってもうしわけない!ゆっくりとキャンプをお楽しみ下さい!それでは、本官はこれで!」
ドンさん 「お仕事、ご苦労様です」

四人は手を振り、雄一郎は敬礼をして別れる。
やるじゃん!と桐子に脇腹を突かれるドンさん。そんな風にじゃれ合いながら上手奥に消える。それを見送る雄一郎。そこに入電。

雄一郎 (無線を取る)「ハ!こちら堺、堺雄一郎であります!」

雄一郎 「巡査部長殿がでありますか!ハ!た、ただいま参ります!」

無線を切って、上手手前へと駆け去る。

入れ替わるようにして下手手前から、一人の女性が三人の女性を引き連れて現れる。
先頭の女性は竜ノ沢地区の巡査部長。後ろの三人は真奈美、聡美、雪枝。

由希子 「話の大筋は伺いました。ですから次はもう少し突っ込んだことをお伺いしたいのですが、構いませんね、幡中さん」

その言葉を受けて、一番後ろにいた雪枝がずいと一番前に出る。

由希子 「娘さん達を探してほしいとのことでしたが」
雪枝 「ええと、その、巡査部長さん」
由希子 「宝田です。宝田由希子」
雪枝 「宝田さん、その通りです。私の娘のみさきと、加納桐子ちゃん、屋敷和美ちゃんの三人を、どうか探していただきたいのです」
由希子 「幡中さん、幡中雪枝さんといいましたね。失礼ですが……」
雪枝 「ええ、はい。病院から抜け出した牧田梢さんが探しているのは私と、夫です」
由希子 「あなたと彼女の関係はそれだけではありませんね。牧田梢と、あなたの夫、幡中信博は15年前の竜ノ沢渓谷での事件の関係者」
雪枝 「その、通りです」

雪枝、俯く。

由希子 「その件と、今回の娘さんの件は」
雪枝 「直接は、関係ありません。いえ、ないはずです。でも、牧田さんが私や夫を捜す間に娘たちに出会ってしまったら、どうなってしまうのかと思うと……」
由希子 「お察しいたします。目下、全職員全力を尽くして牧田梢の捜索に当たっております。また、今回提供していただいたこれらの写真(手に持っている写真を見せる)を元に、先ほど幡中さんの娘さん達も捜索対象に加えました。何か新しい情報が入り次第必ずお伝えいたします」
雪枝 (はっと顔を上げ、深々と頭を下げる)「ありがとう、ございます」
由希子 「ところで――」

由希子の言葉に、ゆるゆると頭を上げる雪枝。

由希子 「私は竜ノ沢に赴任してきてまた4ヶ月。ようやくこの辺りの地理にも慣れてきたばかりで、少し裏道に入るといまだに迷ってしまうぐらいです。それと同じことが、この辺りの歴史に関しても言えます」

言わんとするところを察したらしく、きっと唇を噛む雪枝。

由希子 「15年前の事件、私は資料で読んだ程度の知識しかありませんし、それも決して十分とは言えないと思っています。ですから、できれば幡中さん、あなたの口からお聞かせ願えませんか。あなたの知る限りで結構です。15年前に何があったのか。そして牧田梢と、あなたと、あなたの夫、幡中信博と、そして、15年前に命を落とした平田庄司がどのような関係であったのかを」

雪枝、しばらく黙って逡巡している。
が、まっすぐに由希子を見据える。

雪枝 「分かりました。お話しいたします。その時のことを」


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