第三幕:1080000

雪名 それからひと月が経ちました。毎日お姉ちゃん達は朝早くどこかに出かけては夜遅くに帰ってきます。とっても暗い顔をして。毎日天音さんが様子を見に来てくれます。結ちゃんとは毎日あって遊んでいます。でも、やっぱりどうしても気にかかるのはお姉ちゃん達のことで、何となく私のためだってことはわかるんですけど、私はどうしていいかわからなくて、何もできなくて。どうしたらいいんですか?誰か教えてください。

天音、下手から登場。

天音 教えてあげようか?
雪名 天音さん!
天音 時雨ちゃん達はねぇ、雪名ちゃんのために……
雪名 ……(うっと声を出さずにやって、胸を抑えてうつむく)
天音 ふーん、大変だねぇ。自分でももうそろそろだってわかってるんでしょ。
雪名 えっ?な、なにがですか?
天音 時雨ちゃん達には隠してるみたいだけど、日に日に悪くなってるんでしょ?雪名ちゃんの具合。
雪名 ……やっぱり天音さんには隠せませんね。
天音 誘う者の私は死期が近い人はどんなに隠しててもわかるモンなのよ。
雪名 (ぼそっと)嘘ばっかり。そういうのでわかったわけじゃないくせに。
天音 えっ?
雪名 いいえ。それよりも……うっ!
天音 大丈夫?とりあえず今日は休みなさいよ。
雪名 はい。

雪名、舞台ツラに出て、座って溜め息を吐く。
天音となりに座る。

天音 少しは落ち着いた?
雪名 あ、ありがとうございます。……はぁ、どうして私こんな体に生まれてきちゃったのかなぁ。
天音 嘆いてもしょうがないことでしょ。
雪名 天音さんって冷たいですね。
天音 でも逆にそういう体だから他の人よりも、ゆっくりとした季節のうつろいとか、微かな風のそよぎとか、穏やかな川のせせらぎとかを敏感に感じ取れるんじゃない?そういうのって大切でしょ。
雪名 天音さんって……どっちなんですか。
天音 別にぃ。嘆くんじゃなくってもっと前向きに、最期の時まで笑っていられるように生きてほしいから、生きていたいからってただそれだけよ。
雪名 天音さんは強いなぁ。
天音 ううん、雪名ちゃんや時雨ちゃんには負けるわよ。私は臆病者の卑怯者だからね。
雪名 そう……ですか?
天音 そう……よ。

時雨、雷三、上手から帰ってくる。時雨、じろっと天音を見る。

天音 それじゃ邪魔者は退散しようかな。
雪名 あ、さようなら。

時雨、雷三、無言で見送る。「あ〜あ」といいながら下手に退散する天音。

雪名 そう言えば、今日は結ちゃんと遊べなかったな。

天音、下手から駆け戻ってくる。

天音 雪名ちゃん!結ちゃんがっ!

はっと目をやる三人。
暗転。


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