第二幕:天下り

場面変わって地球。天音、時雨、雷三の三人がそろっている。

天音 さて、天下りから一週間も経つんだし、そろそろ結論を出してくれても良くない?時雨ちゃん。まだ迷ってるの?それとも病院なんかに潜んでるあたり、了承と受け取っていいのかしら?。
時雨 ……このこと、雪名には内緒にしておいて。
天音 やぁっと決心したわけね。
雷三 時雨!?本当に受ける気かっ?
時雨 雷三は降りても構わないわよ。私一人でも、やる。
天音 いいわねぇ、その決心。それに比べて男ときたら。
雷三 わ、わかったやるさ。やればいいんだろう!
時雨 そんな言い方するんならやらなくっても……
雷三 いや、やる。誰がなんと言おうとやる。
時雨 ……。
天音 ところで当の雪名ちゃんは?
雷三 ここ数日、昼間はいつもどこかに行ってるな。今の状況をどれくらい理解しているのか。
天音 あの年頃の子はわからないわよぉ。もしかしたら誰よりも状況をよく理解しているかもしれない。あ、噂をすれば、ね。

上手から雪名、小走りに駆けてくる。

雪名 お姉ちゃ〜ん。あ、天音さん、こんにちは。
天音 はい、こんにちは。元気にしてた?
雪名 はい……
時雨 天音!
天音 あ、ごめん、いまのは失言。忘れてくれる?
雪名 はい。それよりも、お姉ちゃん、見てみて。花輪作ったの。中庭のお花で。
時雨 ……へえ、うまくできたわね。
雪名 うん。

結 (上手から声のみ)あれ?誰かいるの?

雷三 人間が来たぞ。
時雨 普通の人には私たちは見えないのよ。だから堂々と病院にいるんじゃない。
雷三 そうだったな。

上手より結、登場。雷三に向かって

結 わ、こんなところで何をやってらっしゃるんですか?どなたか入院していらっしゃるんですか?あ、初めまして、私、結っていいます。
雷三 み、見えてないんだよな。
結 え、え〜と、初対面なのにどうもすみません。なんだかなれなれしくしちゃって。でも私入院が長いから、初めて見る人でこんな病院の奥にいらっしゃる人って珍しいから。えと……
雷三 見えてない。見えてないぞぉ。
結 さっきから何をおっしゃってるんですか?
雷三 これ何本だ?

唐突に指を二本立てて結に見せる。

結 えっと、二本ですね?

雷三、三本、五本、一本と変えて「これは?」を連発。結、戸惑いながらちゃんと答える。

雷三 (時雨に助けを求めるように)見えてないんだよなぁああ。
天音 (こそっと)私たち月の民が見えるなんてね。この子死期が近いわ。最初の獲物になるかもね。
時雨 (結には聞こえないように)またそういう無神経なことをっ!

雪名、結に近付く。

雪名 初めまして、私は雪名。結ちゃんっていうの?
結 は、はい。初めまして。
雪名 こっちが私のお姉ちゃんの時雨お姉ちゃん。その友達の雷三さんと天音さんだよ。
結 初めまして。
天音 初めまして。よろしくね。

時雨、無言で会釈。

雷三 あ、ああ。初めまして。
結 えっと、皆さんはどうしてこの病院に?

言われて雪名、どう答えたらいいのかと時雨を見る。

時雨 雪名は体が弱いから……
結 あ、そうなんですか。私も体が弱いんですよ。よく風邪とかひいちゃって。
雷三 今回はどうして入院なんか?見た目はなんだか元気そうだけど。
結 えっと、風邪です。お恥ずかしながら。
雪名 え、でも、風邪っていうだけで入院するの?
結 私は気管支と免疫系が弱いらしいですから。今年の風邪はタチが悪いって言いますし、念のためって母が。
雪名 毎年聞くセリフだけどね。
結 それもよく言われてますよね。
天音 結ちゃんは入退院歴は長いの?
結 ほんの小さい頃からもう数えられないくらいですよ。
天音 ふ〜ん。
雪名 結ちゃん、これあげる。早くよくなりますようにって。
結 わぁ、ありがとう。すごい、花輪なんて。冬なのに。
雪名 中庭でこれだけの花を探すの大変だったんだからね。
結 うん、ありがとう。私花輪の作り方知らないんです。今度教えてくれませんか?
雪名 うん、いいよ〜。

承 (上手から声のみ)結〜、どこにいるの〜。

結 あ、お姉ちゃんだ。承っていうんです。お姉ちゃんこっちだよ〜。

結が手を振っている間に結を中央に残して全員舞台上から下手にこそこそと捌ける。気付かない結。上手から承登場。

承 こんなところにいた。一人でうろうろしてちゃ駄目でしょ。
結 ごめんなさいお姉ちゃん。あ、あの、改めてこっちが私のお姉ちゃんのしょ……う……あれ?
承 何やってんのよ。
結 さっきまでいたのに……。お姉ちゃん。私ねぇ、お友達ができたんだよ。
承 そう?良かったじゃない。
結 でもお姉ちゃんが来たらいなくなっちゃった。
承 きっと用事があったのよ。また会えるわよ。そのとき紹介してね。
結 うんわかった。あ、花輪もらったよ。
承 へぇ、こんな冬にねぇ。
結 ふふ、お姉ちゃん私とおんなじこと言ってる。

話しながら上手にはける。
入れ替わるように下手から四人戻ってきて中央へ。

天音 繰り返す入退院で体力をすり減らしてるときに風邪をひいたわけね。これは命取りかも。
雷三 そうかぁ?意外と元気そうだったぞ。
天音 死を覚悟してるからかもしれないわよ。私はどっちかって言うともう長くはない方に賭けるわね。私たちが見えたくらいだし。なによりあの子、まだ何か大事なことを隠してるわよ。
雪名 えっ!?
時雨 どこまでも無神経な人ね。こんなところでぐだぐだ言ってても仕方ないでしょ。
天音 それもそうね。でも良かったじゃない?あんた達が仕事してる間の雪名ちゃんの遊び相手が見つかって。
時雨 悪いけど素直には喜べないわ。

雪名一人残してピンスポ。三人は捌ける。


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