第一幕:月の裁き

舞台中央に時雨、雪名、雷三の三人が立ち、周りを黒ずくめの残り全員が取り囲む。中央のみスポットで周りは顔が見えない程度の暗さ。あるいは、声のみ。

時雨 どうして、どうしてなんですかっ!
全員 有罪。有罪。有罪。
雪名 何が悪かったって言うのよぉ。
全員 有罪。有罪。有罪。
雷三 おれが何をしたと言うんだ!
全員 有罪。有罪。有罪。
時雨 弁解させてください!
全員 有罪。有罪。有罪。
雪名 どうして話を聞いてあげるくらいのことがいけないの?
全員 有罪。有罪。有罪。
雷三 ただ、ただ放っとけなかったんだ!それだけなのに。
全員 有罪。有罪。有罪。
時雨 間違ってます!理不尽です!
全員 有罪。有罪。有罪。
雷三 何のためにおれ達が咎められなくちゃいけないんだ!
一人 禁を破った。
一人 禁を破った者には罰を。
一人 地球への永久追放。
時雨 な、まさか!い、妹は、雪名は体が弱いんです!どうかお慈悲を!
全員 時雨、雪名、雷三。三名に『天下り』の判決を申し渡す。
時雨 お慈悲をー!

暗転。

周囲の全員は捌けて、三人は上手・中央・下手に別れる。
上手が雪名、中央が雷三、下手が時雨。
時雨のみピンスポが当たって――

時雨 死者は天に昇る。
   魂はまっすぐに月に向かう。
   太陽の光を反射して輝くだけの。
   漆黒の夜の闇の中で死した光を放つ月へと。
   その圧倒的な『死』へと魅き寄せられるように。
   月はその空ろでいて皓々と輝く光を静かに地球へと投げかける。
   すべての死者を慈しむように……

時雨+雷三にピンスポ。

雷三 月には人が住む。
   いや、正確には転生による新たな生を待つ死者と、
   死者の魂の水先案内人となる、月へと誘う(いざなう)者、
   月でそれらをまとめ、月の秩序を守る、束ねる者、
   そして、生前の行ないをもとに魂を裁く者、
   これら三つの月の民とが。

三人にピンスポ。

雪名 誘う者は『一つの魂も見逃してはいけない』。
   束ねる者は『一つの魂にも共感してはいけない』。
   裁く者は『一つの魂にも手心を加えてはいけない』。
   禁を破った人は下界、つまり地球へと追放されてしまう。
   それが――

三人 『天下り』。

舞台に照明戻る。下手から天音。時雨、雷三のみがそれに気付く。

天音 ハロー、ちょっとそこのお二人さん。

二人、嫌そうな表情で天音に寄って行く。

天音 バっカねー。いくら年若い女の人がいかにも心残りがありそうにしてたからってほっといて何もしなけりゃ良かったのに。
時雨 天音、うるさい。
天音 あら、いつもより元気がない上につれないわね時雨ちゃん。せっっかく幼なじみのよしみで『天下り』前に会いに来てあげたのに。『天下り』なんてどこぞの高級官僚みたいよねぇ。笑えちゃう。
時雨 天音、いい加減にしないと……
天音 こっわ〜い。ま、地球の方で嫌でもまた会えるけどね。私は『誘う者』だから。
雷三 うるさいっ!何をしに来たんだっ!落ちぶれたおれ達を笑いに来たのかっ?なら笑えよ。笑うがいいさ!
天音 何を怒ってるのよ。話したくなくなるわねぇ〜。いい話を持ってきてあげたのに。
時雨 聞きたくない。
天音 そういわれると逆に話したくなるわ。まぁ聞きなさいって。雪名ちゃん体弱いんでしょ?月から離れられないはずなのにこんなことになっちゃってあんた達心配じゃない?
雷三 だから何だって言うんだ。
天音 条件によっては月の民の王のご意志によってあんた達が月に戻れるかもしれないってことよ。
時雨 何?何をすればいいの?
天音 ノってきたわね。いい?下界に下りたら人の命を奪うこと。
時雨 っ!?
天音 その数なんと百八万。それで一人が月に帰れるってわけ。
雷三 な、なんなんだそれは!
天音 さぁ?あんまりにも人が増えすぎたからじゃない?『地球の浄化』って言ってたわよ。『煩悩の数が百八。煩悩によっておかした罪はそれぞれが万死に値する』んだって。
時雨 月の民の王は神にでもなったつもりなの?(吐き捨てるように)
天音 王がどんなつもりかは知らないけど、あんた達に選択の余地はないと思うわよ。ま、禁を破ってまで死者と関わってしまった『束ねる者』失格のあんた達にはきつい選択でしょうけどね。

雪名上手で一人で佇んでいたが、上手から声が掛かったような様子で、下手の三人の所に呼びに来る。

雪名 お姉ちゃん、時間だって。
天音 んもう、まだ返事もらってないのに。
時雨 わかったわ、この話の続きは地球で。
天音 ん、じゃあねぇ。

天音去ると同時に暗転。


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