『15分』

センターで三人(マリとカズとショウ)がこたつに入っている。
適当なことをしゃべりながら。

カズ 「あー、ヒマだー」
ショウ 「しょうがないじゃん」
マリ 「ねー、なんかしよーよー」
カズ 「なんか、ねぇ」

ノリ、寒い寒いと連呼しながら荷物を持って駆け込んでくる。

カズ 「おー、お疲れー」
ノリ 「いや、やっぱりいくら悪くなるからって外にリンゴ置いとくことなかったわ。寒いったらない」
ショウ 「まぁまぁ」
マリ 「あれ、ナイフも持ってきた?」
ノリ 「剥いて持ってくるの寒かったんだっつーの。はい」
カズ 「やっぱりぼくが剥くんかい」

渡されて、仕方なく黙って剥き始めるカズ。

ノリ(こたつに入りつつ) 「で、なに話してたん?」
マリ 「いや、ヒマだねーと」
ショウ 「で、なんかしようってさ」
ノリ 「何か、ねぇ」
ショウ 「そう、なにか……あ」

何を思いついたのか、何に気がついたのか、リンゴの皿の下から一枚の紙を引っ張り出す(無対象)。

ショウ 「これなんだろ。えーと、『突然ですがゲームを始めます』」
マリ 「は?なにそれ、ノリ」
ノリ 「いや、知らん。オレじゃない」
マリ 「いやいや」
ショウ 「『ルールは三つ。1.これから15分間この部屋を出ることを禁止します。出たら死にます』」
マリ 「……は?ちょっと、ショウ冗談やめてよ!」
ショウ 「いや、だって書いてあるんだって」
ノリ 「とりあえず、続き」
ショウ 「あ、おう。『2.15分後、一人だけがこたつに入っていることを許します。破ったら死にます』」
ショウ 「『3.15分後、こたつの外に出ていることを禁止します。出ていたら死にます』」
ショウ 「『生き残るためには、他の人をさし出して下さい』」
ショウ 「……終わり」
マリ 「いやいやいやいや……マジで?」
カズ 「おっけー剥けた。食えー……って、どした?」
ショウ 「はい」

カズ受け取って、読む。

カズ 「……これなに?」
マリ 「リンゴの皿の下から出て来た」
ノリ 「オレじゃないからな、言っとくけど」
カズ 「はいはい分かった。で、これ、マジなの?」
ショウ 「……さぁ」
カズ 「さぁって、お前なぁ」
ショウ 「いや、まぁ、イタズラじゃねえの?そんな、死ぬとかさ、ありえないじゃん」
マリ 「でも、もし、本当だったら?」
ノリ 「死ぬ?」
ショウ 「まさかぁ、ないない。心配すんなって。そうだ、おれちょっとトイレ行ってくる」
マリ 「でも、部屋出たら死んじゃうんじゃ!」
ショウ 「ありえねえよ。ここで漏らすのやだし、死なないって確認するついでに行ってくるわ」

ショウ、笑って部屋を出るも、出た瞬間、呻いて胸を押さえ、二三歩進んで倒れる。

三人 「…………え?」
カズ 「え、マジで?」
ノリ 「おい、やめろよ、シャレになんないって」
マリ 「ちょ、ちょっと、冗談だよね?」

声をかけたりするも動く気配なし。

カズ 「え、本当に死んだの?」
マリ 「いや……いやぁ」
ノリ 「でも、確認に行ったらオレ達も死んじゃうかもだし」
カズ 「だよな。でも、つまり、これって、ホンモノ?」
マリ 「てことは、15分後にこたつの中にいなきゃいけないってことだよね!?」
ノリ 「でも、それで助かるのは一人だけ。二人以上こたつの中にいたら、二人ともアウト」
カズ 「なにそれ、ほぼ詰みじゃん」

どうするか三人で議論。
他の二人を犠牲にしてまで生き残る選択はできないとか、だからと言って死にたくもないとか。何か抜け道はないかとか。アドリブ。

ノリ 「この部屋を出ることを禁止するってことは、他の部屋のこたつに入ることは許可しないってことだよな」
カズ 「あ、ちょっと思ったんだけど、この文面、出るとか入るとかいう言葉をやたら使ってるけど、その定義ってどうなってるんだろ」
マリ 「定義?」
カズ 「そう。こたつに入っているっていうのは、普通に考えたら脚を突っ込んでればいいわけじゃん。でも、部屋に入っているっていうのは、身体全体が入っているってことを普通は指すと思うんだよね」
ノリ 「つまり?」
カズ 「何ができるか分からないけど、ちょっとそこを確認しとく必要があるかも、と思って」

言って、部屋のドアに向かう。

マリ 「え、ちょっと何をする気?」
カズ 「実験」

言って、片足を廊下に出してみる。

カズ 「ショウの時にも思ったんだけど、このぐらいじゃ死なないか」

足をそろそろと廊下につけてみる。
徐々に体重を移す。
身体を半分出してみる。
片足を残した状態でほとんど出てみる。

カズ 「……ふーっ」

大きく息をつく。

カズ 「死なないもんだね。じゃあ、今度は反対」

座り込んで、片足を廊下に出してみる。
それを床につけてみる。

カズ 「さて、ここからが肝心」

もう一方の足を浮かして、その指先が廊下に出た瞬間。

ショウの声『カズ、アウト』

カズ 「うっ!」

胸を押さえて後ろに倒れる。

マリ 「ひっ!」

カズ、もがいて、動きが止まる。

ノリ(触ってみて) 「……死んでる」
マリ 「なんで!?なんで!?誰がこんなことしたの!?」
ノリ 「分からない。でも、カズが証明してくれた。このゲーム、入ってるかどうかの判定は、片足でもその領域にあればいいんだ。でも両足がその領域から出たら、外だって見なされるんだ」
マリ 「なんでそんな冷静なの!?二人も死んだんだよ!?」
ノリ 「分かってるよそんなこと!でも、どうしようもないだろ!」
マリ 「どうしようもないってなによ!友達が死んだのになんでそんなに冷たいのよ!」
ノリ 「じゃあどうしろって言うんだよ!」

二人、しばし言い合う。アドリブ。
声を荒げつかれたのか、二人、言葉少なになる。

ショウの声『あと1分』

二人、はたと我に返る。

ノリ 「ダメだ、もう、時間がない」
マリ 「私、死にたくない」
ノリ 「オレだってそうだよ!でも、どっちかしか生き残れないんだ!」
マリ 「ノリを殺して生き残るのも、イヤ」
ノリ 「そんなの、今さら言ってもどうしようもないんだよ。見てただろ、ルールは絶対だ」

ショウの声『あと30秒』

ノリ 「……もう本当に時間がない。こうしよう。恨みっこなしだ。じゃんけんで勝った方がこたつに入る」
マリ 「いやだよ、そんなの」
ノリ 「ああもう、いつまでもそんなこと言ってたら、オレ、部屋の外に出るぞ!」
マリ 「ヤだ!それもイヤだ!」
ノリ 「じゃあ、じゃんけんしよう。恨みっこなし」
マリ 「……分かった」

二人でじゃんけん。
ノリが勝つ。

マリ 「……じゃあ、出るね」

言って、マリがこたつから足を抜く。

ノリ 「……うん。マリ……」
マリ 「謝らないで。ノリは悪くない。あーあ、こんなことになるなんてね。生き残るためには他の人をさし出して下さいだなんて、酷いゲームもあったもんだよ」
ノリ 「…………」
マリ 「ノリは、私の分まで、ううん、カズと、ショウの分まで生きてね」
ノリ 「他の人を、さし出す、のか」
マリ 「どうしたの?」
ノリ 「ちょっと思いついた。マリ、このナイフ持って」
マリ 「う、うん」

ノリ、マリにナイフを持たせて、大きく振り上げ、こたつの上に置いた自分の手の上に突き立てる。

マリ 「きゃああああ!」
ノリ 「これで終わりじゃない!マリ、オレに『こたつから出ろ』って言うんだ!」
マリ 「なんで!?何を!?」
ノリ 「早く!時間がない!」

ショウの声『あと10秒』

ノリ 「早く言うんだ!」
マリ 「なんて!?」
ノリ 「『こたつを出ろ』って!」
マリ 「こたつを出て!」

ショウの声『5秒』

ノリ、こたつから足を抜く。

ショウの声『4・3・2・1・0』
ショウの声『タイムアップ』

ショウが起き上がる。

ショウ 「はい、じゃあ、ひとまずここまで」

カズも起き上がる。

カズ 「最後のところ、どうなったわけ?ちょっとさ、解説してショウに判定してもらおう」
ノリ 「あー、えっと、ほら、15分後にこたつに入ってる一人はオーケーとして、『生き残るためには他の人をさし出せ』って話だったじゃん?だから、ナイフで刺して、こたつから追い出したら、その人は実は生き残る条件を満たすんじゃないかな、と」
マリ 「あー、なるほど」
カズ 「どうよ、ゲーム考案者としては」
ショウ 「……セーフ!」
マリ 「おおー、てことは今回生き残ったのは二人?」
ショウ 「そうなるかな」
カズ 「おおー。拍手」

四人とも、拍手。

ショウ 「結構時間潰れたね」
マリ 「何が怖かったって、ノリが本当にナイフで刺すんじゃないかっていうのが一番怖かった」
ノリ 「ごめんごめん」
カズ 「そういう何が起きるか分からないのがこのゲームだし。ていうかリンゴ食えよ。折角剥いたんだから」
ノリ 「そうだった」
ショウ 「いただきまーす」

リンゴをかじりつつ。

ショウ 「あー、それにしても、やっぱりヒマだなー」
三人 「そうだねー」

しばらく沈黙があって。

マリ 「あ、あれ?これなんだろ……」

[結]



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