『15匹目』

センターで近藤さんがお稲荷さんの掃除。下手から本田さんキョロキョロと登場。

本田 「えー、本日は周りから『キツネ屋敷』と呼ばれているお宅があると聞いて来ました。えーと、この辺のはずなんですけど、あ、人がいます、ちょっと訊いてみましょうか。こんにちは」
近藤 「こんにちは」
本田 「私、コスモステレビの本田と申します。えーと、この辺で『キツネ屋敷』と呼ばれて有名なお家があると聞いて来たんですけども……」
近藤 「ああ、それはきっとウチですね」
本田 「あ、そうなんですか?それでは、もしかしてご主人の、近藤さん?」
近藤 「ええ、私が近藤です」
本田 「あ、よかった、いきなり会えました。それで、近藤さん、ちょっとお話お伺いしてもよろしいですか?」
近藤 「ええ、こちらへどうぞ」

近藤さん、キューブに座るよう勧める。二人、並んで腰掛ける。

近藤 「本田さん、今、お茶をお持ちします」
本田 「あ、そんな、結構ですよ、お構いなく」
近藤 「そう仰らず。と言いましても、お茶請けらしいものはなくて、油揚げしかないんですが」
本田 「油揚げなんて、近藤さん自身がまるでキツネみたいですね」
近藤 「あはは、そう言わず。この油揚げ、絶品なんですよ」

言いながら近藤さん、油揚げの入った皿を二人の間に置く。それから、一枚をさっきまで掃除していたお稲荷さんのところにお供えに行く。
拝む近藤さんの後ろから、寄って行った本田さんが覗き込んで

本田 「近藤さん、それは、お稲荷様ですか?」
近藤 「ええ、この辺の守り神なんですよ」
本田 「いつも近藤さんがお掃除を?」
近藤 「ええ、なんだか放っておけなくてですね」
本田 「へぇ、私も手を合わさせて頂きます」

二人して手を合わせて、キューブに戻って来る。

本田 「さて、では近藤さん、早速お話を聞かせていただきたいんですが、まずはそう、キツネをたくさん飼われているそうですね、ほらっ、そこにも、あそこにも!」
近藤 「飼っているといいますか、怪我してるのを拾ってきたら居着いちゃうんですよね」
本田 「そうなんですかー」
近藤 「だから、飼っているというよりは、一緒に暮らしているって感じですかね」
本田 「へぇ、家族なんですねぇ」
近藤 「そうですね」
本田 「可愛いですね、あの、撫でてみても?」
近藤 「どうぞどうぞ、油揚げ、あげてみます?」
本田 「いいんですか?ほらっ、おお、食べてる食べてる。器用に噛み千切って食べるもんですねぇ」
近藤 「コイツらも好物ですから」
本田 「それにしてもたくさんいますね、今、何匹ぐらいいるんですか?」
近藤 「ええと、15匹ですかね」
本田 「へぇ、いち、にぃ、さん、しぃ、……じゅうし。あれ?十四匹しか見当たりませんけど」
近藤 「そうですか?じゃあ、どこかに遊びにでも行ってるんですかね」
本田 (いたずらっぽく)「もしかして、人を化かしにでも行ってるんじゃないですかぁ?人に化けたりして」
近藤 「あははは、そんな馬鹿な。キツネが人に化けて人を化かすなんて、そんな昔話みたいなことあるわけないじゃないですか」
本田 「そうですよねぇ。あ、それで、近藤さん、普段お仕事は何を」
近藤 「ああ、肉屋をやっているんですよ、それで、クズ肉を持って帰ってきては、コイツらにやってるんですよ」
本田 「そうなんですかぁ。いや、本当に可愛いですねぇ」
近藤 「でもですね、怪我したキツネがいるってことは、それだけ人間が車なんかで無理矢理キツネの生息域に入り込んでいるということで、コイツらは言わば被害者であると思うんですよ」
本田 「ええ」
近藤 「人間は、もっと分をわきまえて、自然を大切にして、共に生きていく、共生という思想を持つべきだと思うんですよねぇ」

近藤、言いながら無意識に左膝を撫でている。

本田 「まったく仰る通りですねぇ……ところで、近藤さん、左足、どうかされたんですか?」
近藤 (気付いて)「あ、ええ、ちょっと昔、足を怪我しちゃいましてね、古傷がね」
本田 「それは大変ですね、お大事にして下さい」
近藤 「ええ、どうも」

下手から近藤さん2登場。

2 「あー、今日も疲れたなぁ。あれ?」
本田 (気付いて)「あ、こんにちは、私、コスモステレビの本田と申します」

と、挨拶をしたりしている内に、近藤さん、こっそりと立ち上がってさりげなく上手向きに半身になる。

2 「あ、初めまして、私、近藤といいます」
本田 「え?近藤さん、あの、このお宅の近藤さんのご親戚か何かですか?」
2 「いいえ、主人ですけど」
本田 「え、じゃあ、こちらの方は?」

と、上手に振り返ると、

近藤 (首をかしげて胸元に手を挙げ正面に)「コン」

[結]



top
prev index


scenario
prev
index
※message
inserted by FC2 system